私が民家研究会として合宿に行くのは2回目になるわけだが、はたして自分は民家研究会なのか?という疑問にいつもとらわれている。この合宿が終わった後も今だに自分が民研の一部であるという自覚が足りない。それはなぜなら、民研として愛すべき茅葺き民家をあまり好きでないというところにある。 それでは本題に。我々が今回茅葺き民家の調査に行ったのは岩手県安代町の五日市という村であった。とりあえず、遠い。東京から丸一日かけて青春18切符。あ〜、おれの青春ってこんな使い方をしていいのか?といつもいやいややってくる。盛岡からさらにレンタカーを借りて、約2時間。前回の下見の際事故ったにもかかわらず、またハンドルをにぎっている。来年はもう来ない!と心に誓う。なぜ2回もこんな所にくるのだ?もう私の心は茅葺き民家未練はない。 無事事故もなく安代町に到着する。いつもお世話になっているローカルアートクラブ(地方の美術愛好会って感じ)の斉藤さんに取り合えず会いに行く。歴史的建造物愛好協会の川島さんは出てこない。とうとう見捨てられたか。そこで、寄宿先の宿(村の集会所)とその近くに住む石田さんという人を紹介される。下見の際には随分迷惑をかけたが快く迎えてくれた。 次の日の朝は早かった。よくわからないが、写生大会にいかねばならないらしい。どれだけの人が来るのかと思えば、どっかからやってきた婦人ひとりだけであった。自分は絵には自信があり少しばかり気合いがはいっていたが、そのぶん拍子抜けしてしまった。それでもめげずに一生懸命描いていると、なぜかもうみな暇そうにうろうろしている!どうやら私待ちらしい。絵は描きかけであったがしょうがなく終わりにした。その後は、例の婦人と写真撮影である。相変わらず顔がひきつっているのに気付く。 その後、やっと調査の対象である田鎖家にやってくる。合宿の参加者は去年の半分の6人ある。しかも一年生の参加者なし。今年で民研も終わりか、、、とふと思う。しかしなぜか、実測調査は予想以上の速さで進んでいく。少数精鋭とはこのようなことをいうのか。しかもさらに実測調査だけでは飽き足らず、フィールドサーベイまでしようとみなはいいだした。この村について調べようというのだ。金田一にでもなったつもりか!しかもそのことについてローカルアートクラブの斉藤さんに話すと、「それはいいことじゃない!」と拍車をかける。さらに「この民家はいわく付きなのよ、それを知らないで調査したら村の人に笑い者にされるよ」などと言い出す。もちろんそんなことをいわれては引き下がれない。次の日から実測と聞き込みの二手にわかれて動くことになった。 その日のよる地図を入手した我々はどの家から聞き込みに行くかきめるのだが、気になることにやけに小山田という家が多い。民研の小山田のルーツはここにあるのか、田鎖家のいわくよりこっちの方が気にかかる。そういうこともあり私と小山田は小山田系を探ることになった。しかし地方に来てもっとも障害になるものが方言である。はっきりいってこっちの人の言葉は半分も聞き取れない。はたして、聞き込み調査など本当にできるのか。 次の日、早速村の人のいえにずかずか上がっていく。地方はほとんどの家に鍵がかかっていない。本当に不用心だとおもうが、こうして安心して暮らせるコミュニティーこそが理想なのかなと少し考えてしまう。村の人は快く我々の質問に答えてくれるが、案の定私は何を言っているのか理解しないでいる。小山田のルーツがここではないことだけがはっきりした。それと、田鎖家にいわくがあるのも本当らしい。一件はなしを聞いただけで疲れきった我々が田鎖家にもどると他の家に聞き込みに行った班がもどっている。どうやら、そこの家が元落武者であったというどうでもよい情報をもってかえってきた。その後聞き込み調査を続けいろんなはなしを聞かされた。 結局問題なのは、我々が実測調査していた田鎖家とはもともとは田鎖さんのもではなかったというところにある。もともとは、この村でかなり大きい地位を占める羽沢さんというひとの家のものが住んでいた。しかし、その人たちが盛岡へ引っ越してしまい、その後いろんなひとに貸していたのだが、いつのまにか他の人の手によって田鎖さんのものなってしまったらしい。別に誰が悪いわけでもないのだが、村のひとの認識としてははっきりしないのである。また、もともと現在の場所にあったわけでなく、むらのちょっと高い所に位置していて“天井”という家号がついていたらしい。さらに、馬屋もあったという。こういったことを知らずに帰るのは確かに愚の骨頂である。 最後の夜、“天井”のいろりで鍋を作りお世話になった村の人を呼び酒を酌み交わした。歴史的建造物愛好協会の川島さんもいる。この時ばかりはふいにも、ちょっと岩手に来てよかったかなと思ってしまった。これで我々も村の仲間入りをはたした。いついっても暖かく迎えてくれるに違いない。こうして我々の合宿も無事に終わりを迎えた。 動画